関西旅行4:大阪に迷う

そんなわけで住吉で二人と別れ、大阪へ。睡眠不足と疲労のため、店探索を放棄し、初心を手放して駅構内のマクドナルドにて朝食。悔しいことにブレックファーストメニューで和んでしまった。旅先であのマークを見るとほっとする、というのは本当かもしれない。普段は独占ぶりに辟易するばかりだが。

さて、これからどうしよう。二人は「梅田で人体」と繰り返していたものの、手がかりの一つもありゃしない。10時になるのを待って本屋に入り、関西情報誌のエルマガジンとカジカジを買う。ぐりとぐらが表紙のMOEに目移りする。

・圧倒的人気の「かすてら」を実際につくってみよう
う、食べたい。

駅地下の安いカフェで茶をすすりつつ雑誌をめくる。うめだうめだじんたいじんたい。あれ?見つからないぞ。窮して先ほどの相手Aに電話。「梅田シティーミュージアム」というキーワードを聞き出す。交番で道を聞く。アバウトな道案内を受ける。地下通路を見過ごし、120分以上迷う。連絡通路の地下街を何周したことか。会場案内は「徒歩約8分 」「分かりやすいはず」とあるが、こちらは方向感覚に自信がない。それだけは自信がある。何せ、学校に行く途中で道に迷う。宅配ピザ屋をクビになる。駅から徒歩5分の友人宅を探して40分歩きまわる。毎日が小さな旅だ。行ったことがある場所なら何とかなるが、ここは旅先、非日常。全くもってなんともならなかった。歩きすぎで右膝を再び痛めたり理不尽な因縁つけられたり。

13時、ようやく会場に。
ここの売りは本物の人体標本に触れることができる点にある。「プラストミック」という技術で樹脂化された内臓はゴムのようなプラスチックのような手触りがした。人肌の温かさやそのものの感触までは望むべくもないが、材料が人体なので迫力が違う。縦に輪切りした脳や手術器具の埋め込まれた肉体、剥がして分かる右半身など普段はお目にかかれないもので一杯。標本のページを(http://www7.ocn.ne.jp/~karada/page005.html)見て気分を味わって欲しい。

「ためになる」観点からすればそれはもうためになった。「珍しいものを見せる」点でも申し分ない。博覧会としての在り方は正しい。趣旨にも賛同できる。一見の価値はある。
でも、正しいだけでは息が詰まる。「楽しい」も入れないと辛くなる。物量とインパクトに物を言わせる力任せな方針じゃ思ったほど楽しめなかったのが残念だ。映画一本以上の入場料なのだからもう少し娯楽方面でも頑張って欲しかった。
70年の万博で何時間もの行列にも負けず月の石を見た人たちはどんな感想を持ったんだろう。そういえば同じ大阪だ。

■提言(既出かも)
・「内蔵−神経系Tシャツ」など売り出してはいかがだろう。そのままツボ押しにも使えそうなものを。

・人体との比較対象が欲しい。同じ働きをする装置を作るとしたらどのくらいの大きさでいくらかかるか、とかのデータをはっきり見せる。

・「ケツの穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタいわせたる」という関西人的脅し文句を模型相手に実践してみたい。


酒豪Tに教えてもらった店でお好み焼きを食する。人情に触れることのできる店だった。本日唯一の満足。

無目的に一時間ほど歩いていると気付いたら天満橋。古い商店街の狭い路地と猥雑な町並みに心が踊った。どうやらこういう景色が好きらしいことを発見。

ずっと憧れていた串カツにありつく。分厚く生っぽい衣と薄っぺらい肉に古くて濃厚なソース。忘れずにキャベツもつまむ。豪華な駄菓子のようなジャンクな味がした。ここまで予想通りだと一種清々しい。嫌いじゃないが一度食べればもういい。

起死回生を狙った天保山サントリーミュージアムのギャラリー(http://www.suntory.co.jp/culture/smt/index.html)には展示品入れ替え中につき入れず。常設展がないとは知らなかった。エッシャー見たかったなあ。海遊館や大観覧車が横にあったが、どちらもカップル狙い(http://www.kaiyukan.com/night/night.html)が露骨。一人では痛いので逃げるように駅に戻る。道中、持参した本を貪り読む。相変わらずちぎっては読みちぎっては読み。

心斎橋を流し、漫画喫茶で備忘録がてら日記を書く。翌日の月曜は殆どのギャラリーが開いてないことを知り愕然とする。ふらりと入った新興のラーメン屋が悪意を備えた風味で半分近く残す。ひどくささくれ立った気分で通りを北上する。アーケードが切れる頃には地下鉄三駅分くらい歩いていた。
虹の根元が見当たらなかった徒労感が襲う。もう寝たい風呂入りたい。泊まる場所なら京大吉田寮があった。京都に戻って考えよう。

新快速に乗り目覚めたら野洲。京都は40分前に通過。12時にもならないのに京都方面の電車は終了。交番に駆け込む。
「夜、時間を潰せる所ってありますか?」
「ないねえ、この辺田舎だから」

とりあえずビジネスホテルへ。一泊5800と聞き怒りと共に却下。ユースホステルに電話するも「泊められるわけないでしょう」と冷たい声で電話が切られる。教会なら行き場のない人間を受け入れてくれるだろうが歩いていける範囲には見つからない。駅前のコンビニが1時で閉まるらしく、閉店準備で居場所がない。

やっと見つけたバーミヤンで一番安い杏仁豆腐を頼み、閉店の2時まで時間を潰すことに。友人ヤマさんに電話。現状をざっと説明し関西の穴場を聞き出す。

「淡路島の秘宝館」

明日の目的地がアバウトに決定する。ダーツの旅みたいだ。

バーミヤン閉店。向かいのカラオケボックスに移動。値段は2000円。しかも1時間当たり。扉を蹴って出ていきたかったが、行く場所などどこにもない。反抗期の子供のよう。始発の4時までとりあえず2時間で4100円。諸経費込みドリンクなし。ない袖を無理矢理振って金を払う。一曲歌ってみる。二秒で虚しくなり、外に出る。この値段なのに平日深夜の店が盛況であることに驚きを隠せない。音が止まると薄い壁から嫌いな曲が漏れ聞こえる。マイクを使って悪態をつく。怒鳴りこまれると嫌なので無理して歌う。ストレス解消のために声を張り上げる。よくできたマッチポンプと思えなくもない。

そして一時間。

冷静になってソファに体を預ける。音が止むと横から聞こえてくるので、優しそうな歌をBGMに寝ることにした。トミーに癒されたくて入れた「Can’t take my eyes off of you」が始まる。

当然、声は聞こえなかった。
とりあえず裏声は出してみた。