関西旅行5:向こう側の続き

ファミレスのトイレにダッシュで顔を洗いに行ってから四日後。僕はまだ関西をぶらぶらしていた。
灘で四本目の使い捨てカメラを買い、今までの三本は現像に出した。返ってきた写真を見る。

うわぁ。

捨てよう。焼き捨てよう。でもその前に笑いは取ろう。

「もしもしー?フリだけど、暇?」

先日の女子二人組を電話でつかまえ、三宮で会う。
以下、茶を飲みながら。
「しかし凄い写真だこれなんか、ほら」
「フリちゃんも負けとらんで、ほら」
フ「えー、写真撮ってたの?」
「当たり前やん、覚えとらんの?」
「フリちゃん最前列で踊ってはった」
「ショータイムにお客の方向いて動いてた」
「うちら、『見つけたー!』思てなー」
「なー」

話題を換えよう。

フ「あの人達すごかったよね」
「終わってから男子トイレに男の子が連れ込まれてキスとかされてた」
「立場逆やん。はじめて見たわ」
それは凄い。

「ほんとに本職じゃないの?」
「そっち系の人じゃないの?」
「ストレートです。素人です」
「顔としぐさが普通と違った」
「その道を目指すべきや」
フ「やる気ない」
「ダンサーの人に頭くしゃくしゃってやられる時、いきいきしてた」
「スポットライトに当たるべき」
「才能ある」
「指先がもう形になってた」
フ「気のせいだよ」

「フリちゃん、仕事は?」
フ「探してる」
「フリちゃん、彼女は?」
フ「探してる」
「じゃあぴったりよ。仕事も彼もすぐ見つかる」
フ「真っ当に男として女の子を求めてるんだ」
「常識が枷になっとる」
「今までいいことなかったんだから、これからもないわよ」
フ「確かにそうだけど断言するな」
「ほらジャンピングチャンス!」
フ「遠慮します」
「老後は淋しいかもしれないけど、それを引き受けて今を輝こうよ」
「別に胸とか作らなくていいから」
フ「勝手に決めつけないで」
「じゃあちょっと、睫毛いじってみて」
「こ、こう?」
「そうじゃなくて、こう」
ビューラーをかちかちかち。

「にあうー!」
「かわいい、さっきの表情が美を追求してたもん」
フ「みんなこんなもんじゃない?人並みだよ」
「普通の男は嫌がるもん、いやいややもん」
「ああ、もう12歳頃に戻った気分や」
「初々しい」
僕は「メイクアップ・シャドウ」に出てくる女の子か。

「Vネック着たいとか思わへん?何で男はクルーネックだけなんやろって」
フ「別にクルーネックだけでもないし、着たいとも思わない」
「あん時化粧惑星でも買わせとけばよかった!」
「目覚めて、お願い」
左右同時のマシンガントークで全身を蜂の巣にされる。日本最強のおばはんを輩出する土地だけあり、しゃべくりのレベルは非常に高い。

「フリちゃんはね、本気で目指すべきだと思うのよ」
「人には適材適所があるのよ」
フ「いや、足汚いし体細くないしもう年だし」
「悩むポイントが違うで」
うう。