心的外傷への対処法

阪神大震災に際して働いた精神科医たちの記録より、PTSDの対処について参考になればと引用します。
『1995年1月・神戸〜「阪神大震災」下の精神科医たち〜』中井久夫編、他 みすず書房 1995年
手に入る方は読んでみて下さい。今後、役に立つ箇所が出てくるかと思われます。

・PTSDへの対処法
わかりにくい点もあるが、何かの参考になれば。

P120-P123
「心的外傷に対処する」--心理教育的アプローチの試み/パトリシア・アンダーウッド
アンダーウッド氏が現場の精神科医に向けて20分ほど行った講義を文字に。肝要は「外傷反応のあらましを述べること」「ものの感じ方を正常に戻すための実際的方法」を行うこと。

(1)非常事態の苦痛=恐怖体験と現在起こっている反応の間をなんとしてでも結びつけることが大切。「気のおけないグループをみつけて非常事態とこれについての感情とを分かち合うように」
苦痛な非常事態を意識的に想起し、追体験することによって、期せずしてこの記憶が消褪する役に立つこともあり、また心的外傷を日常人生体験の流れの中に統合しやすくもなるといってもよいであろう。

(2)非常事態が原因となってその人の基本的価値観が揺らぎあるいは信条が疑わしく思えるようになることもありうる。生涯抱き続けてきた強固な信念を妥当だと思えなくなることもありうる。「自分が信頼できる人を相手にしてこのことを話すように」すすめる必要があった。

(3)非常事態は心的外傷の記憶を再浮上させることがありうる。
(※第二次世界大戦の記憶など)過去の記憶を押さえることなく自然に浮上させ、思い出るがままにさせこれを話題に取りあげることが肝心であって、そうしてはじめてそれらを再び消褪しはじめさせうるのである。

(4)地震のごとき災害がランダムである事実を受容することがポイントである。
災害を起こさせることができる人などいるわけはなく、誰が死傷するか、資産を失うとかがあらかじめ決まっているわけでもない。それはいうまでもないことなのに、人々は自分がこれまでの生涯になしたこと、なさなかったことをめぐって罪業感にさいなまれることは少なくない。逆に立腹することもやはりある。はたまた、損害をこうむったこと、こうむらなかったことに関して罪業感にさいなまれることも憤慨することもある。負傷しなかった者、軽傷で済んだ方、損失をこうむらなかった者が、おのれの運のよさに非常な罪悪感を持つことが少なくない。この感情をacknowledge(認知し評価)することが大切である。

(5)災害以前の世界がそっくりそのまま戻ってくることはありえないという事実を受容することも大切である。
個々人は治癒するであろうし、地域社会は再建され、正常に復するであろうが、それは「新しい正常」なのである。

(6)個々人は、その人ができるだけ正常な日常のスケジュールを保つ必要がある。
たとえば通勤、通学、食事の支度、犬の散歩など。できるだけ早く日常生活上のいろいろな決断をしていくようにする必要がある。これがコントロールの(事態を支配しているという)感覚をさずけてくれる。多少なりとも生活にルーチンの部分を加え、それぞれの決意を下せるようになる時期が早ければ早いほど、心的外傷の統合開始の時期が早くなる。

(7)最後に、個々人は、日々の生活の中で何でもいいから楽しみをみつけるようにするべきである。むろん自分以外の被災者が負傷したままであるとか、避難所に残っているときにそうすることは格別困難であろう。しかしながら、楽しむことには治癒力がある。治癒過程を促進するのである。

しめくくり回復には日にち薬(それなりの日時)が必要であること、時々外傷体験が足浮上して意識に登るのは正常なことを強調した。この再浮上は持続力のある非常事態を耳にしたときに起こることも、本来の災害の一周年三周年などの”記念日”に起こることもありうる。自分が自然に快癒してこないと思ったなら、専門職の援助を求めるようにすすめておいた。
___

・被災者の親御さん向けQ&A
P190-P191
こどもさんが心配な方々に A / 塩山晃彦
(以下大意)
地震が一段落して、これからを考えたいが、うまく考えられない。ついこどもにもつらくあたってしまう
A解決を焦らず、まずご自身が十分な休息をお取り下さい。ひとりで何とかしようとせずに、相談相手を見つけて上手に「責任逃れ」をして下さい。(中略)必要七尾は、今の自分の力でムリせずにできることは何かを考えること。無理・無茶・無駄は避けて下さい。こころの健康のために→睡眠、食欲。どちらも×なら「くすり」の使用も必要。お父さん、お母さんご自身の心身が安定して、はじめてこどもたちにも余裕を持って接することができる。
叱りすぎ、不安定→自分が十分に休息できているか振り返って欲しい

Q胸がどきどきする、と子供が訴える、検査では心肺に異常なし
過換気症候群のおそれあり。対処法→紙袋の中で呼吸を繰り返す。また、言葉をかけて子供を安心させることも重要。きっかけとなった感情に対する働きかけも必要。しっかりと子供を向き、言い分に耳を傾け、気持ちをくみ取る。

P164
「誰かが気に掛けてくれているということを知ることが、回復の、陰に隠れた一番の力なのである」阿瀬川孝治/J.K.Zoig『ミルトン・エリクソン心理療法』より引用
___
末筆ながら被害に遭われた方にお見舞い申し上げます。大事な人たちがどうか無事で、少しでも笑っていられますように。