関西旅行2:花を見る旅

一日一食は名物を食す
時々は贅沢もする
他は安くあげる(一人なので)

旅先ではこの三ヶ条を頭に入れて行動することにしている。


朝8時。空腹。
今日も血まなこで食べ物を探す。名物はどこだ、名物はどこだ。京都駅地下街でこの時間に開いているのはイノダコーヒ(非コーヒー)とパン屋の進々堂ロッテリア。喫茶店じゃ腹は膨らまないしロッテリアじゃ芸がない。さりとてパン屋にイートインはない。思案の結果、持ちこみを決定。焼き立てのパンを持ってロッテリアに。烏龍茶で席の権利を買い、朝食。桜あんぱんがうまかった。読みかけの本を眺めて残り4時間の潰し方を考える。まどろむ。フリスクはねむってしまった!

こつん。

烏龍茶がこぼれた!フリスクはめをさました!フリスクはこんらんしている!フリスクはしょうきにもどった!

椅子に水がたまっている。ズボンが濡れている。店の紙ナフキンをまとめて取り、こそこそ拭き取る。先ほど読んでいた本がびしょ濡れだ。大した本じゃなかったし読み通す邪魔をになっただけありがたいくらいだったので、勢いをつけてごみ箱に放りこむ。全ての品物を捨ててしまうともはや用はなし。第一、店員の目が冷たい。ズボンも冷たい。極めて不快。黒でよかった。

8時半、移動開始。駅近くのセブンイレブンでコピーと立ち読み。待ち合わせは12時、百万遍の喫茶店進々堂までは駅からバスで20分。徒歩で90分強。時間もあるのでゆっくりしてから行きましょうか。

9時40分、再出発。入り浸り過ぎ。
京都の町並みは味わいがあるのでほっつき歩くのが楽しい。ウオークマンを装備して腕を大きく振って歩く。五条通にさしかかる。またしてもセブンイレブン発見。前回京都訪問時の苦い記憶が蘇る。

あの日、遅い時間に京都駅に着いた。空腹だが店は知らない。開いてない。名物以外は食べたくない。しかし残金500円。極限状態で五条通セブンイレブンに辿り着く。

「豚まん下さい」

これは京都銘菓だと自分に言い聞かせながら136円の夕食。視界が霞んで塩味がきつくなった。

今回こそまともな食事をしよう。湯豆腐とか食べよう。そう誓い、なおも歩く。

11時。寺町二条で三月書房(http://web.kyoto-inet.or.jp/people/sangatu/)を発見する。まだ時間もあるし、ちょっとくらいならいいかな。
中に入ったのが運のつき。どこを見ても自分の欲しかった本が並んでいる。人文科学系を好む人間にとって、そこはエルドラド。面白いようにお宝を発掘する。店中買占めたい欲望を抑え込み、ちょっと冷静になって文庫本二冊とハードカバー四冊、大判漫画を一冊。出費が痛く重たい。時間を随分ロスしてしまった。旅先の本屋は反則である。今は何時だろう。行かねば。
(財布から7700円引き、荷物に3kg足して旅を続けよ)

12時過ぎ。待ち合わせ時刻は過ぎた。京都ナビゲーターぷこさんに事情を話し、暫く待ってもらう。

12時半、ぷこさんとようやく合流。にどめまして。
前回は京都の紅葉スポットを巡ったりチーズケーキ食べたり京都で東京ラーメンすすったりムカエマ探しに清明神社に行き、他人の深刻な悩みに打ちのめされたり。

進々堂に移動。木の匂いがして薄暗く、古風で雑然として親しみやすい学生街の喫茶店。カレーを食べ、もそもそと会話。初対面に限らず話すことがあまり得意でないので淡々と。普段やりあっているメール合戦の勢いはどこへやら。二人ともメールの本文に矢鱈と凝る性質で、ひねった言い回しにはもっとひねった言い回しで返そうとする。卓球のカットかけまくった高速ラリーのように。実際僕は高校時代の部活でそういうテニスをしていた。変な回転とドロップショットに血道を上げ、肝心のショットが打てなくなったのも遠い思い出。

頼まれ物を写真に収め、京福電車に乗る。路面電車はいいなあ。桜も家も近くに見える。ふと横を見ると、ぷこさんが電車の最前列、風景が一番よく見える所でらんらんと目を輝かせている。そうだ。この方は鉄道ふぁん(穏便かつ肯定的な表現)だった。「遠くへの移動もなるべく電車」と。テレビは殆ど見ないそうだが、「世界の車窓から」は好きだろうか。シベリア超特急はどうだろう。

仁和寺に到着。目的は遅咲きの御室桜を見ること。オムロンの由来は御室が発祥だからと説明を受ける。京都豆知識。この時期に桜が見られるのかと訝っていたが、門をくぐるとむせかえるような白い花の洪水。桜よりぐっと低い位置にあり、手を伸ばすと簡単に花弁に触れることができる。ちょっと歩くと濃い桃色の枝垂桜も咲き誇る。死体が埋まっててもいい。背負った鬼に首を締められてもいい。これだけの物が見られれば本望。今年はここ以外では四谷と九段下と目黒で桜を見たが、それぞれが違う表情を見せていた。メンバーも環境も違った。四箇所の桜に順位はつけられない。全てがベスト。

次の目的地は竜安寺。修学旅行以来の場所だ。

そういえば僕の中学校の修学旅行は5年間だけ東北地方だった。京阪神の旅行会社でブラックリストに載っていたのだ。何代か上の修学旅行生が、とある寺院で仏像の腕を折ったのが原因だ。ヤンキー文化華やかなりし時代のこと。母校も今は平和らしい。やれやれ。
ぷこさんにこんな話を振ってみると、もっと悲しい話を聞いた。修学旅行は東北への登山だったそうな。しかも当日は大雨に祟られ中止。持久走ばりに面倒な行事がなくなってラッキー?否。山の中の宿には引率すべき観光地がなく、宿で全員待機の憂き目に遭ったということ。

それはともかく、竜安寺。砂と石しかない無機質な空間だという印象があったが、壁の向こうにはここにも満開の枝垂桜。コントラストが素晴らしい。しばし枯山水に思いを巡らす。でも、どうしても少年野球とバスケ部とテニス部のグラウンドやコート整備の思い出しか浮かばないのが三下の三下たる所以。高校までみっちり運動やってたとは到底思えないやわな肉体、どうしてくれよう。

北野白梅町に戻り、ケーキ屋でおいしいシブーストを頂きながらお茶。
「こちらでよろしかったですか?」
店員さんが言う。これを聞くと、ああ京都にいるんだなと思う。「過去形の方が丁寧に聞こえるから」と生粋の関西人は話す。二文字の食べ物に敬称を着けるところ(「おかゆさん」「おまめさん」)や女の子の一人称に「うち」が使われることと並んで関西弁の不思議である。
駅前に戻り、地元御用達のラーメンで夕食。
め、めいぶつ…?
美味しかったから文句はなし。

そして僕は踊りに、ぷこさんは家に。新快速は逆方向に。