(What’s the story)Morning glory?

夜。眠れず目を覚まし、布団の中でごろごろごろ。
昨日見た自分の顔を瞼の裏に浮かべてみる。

>出先でトイレの鏡に映った自分の顔が14歳当時のそれと酷似していることに驚き、
目に輝きがない。暑いのに唇が震える。頬もだ。精神的にいっぱいいっぱいになった時に出る顔だ。中学の頃からずっとそんな顔をしていたような気がする。

初対面のクラスメイトから出会い頭に「何そんなにびびってんのお前」と言われたのは18歳の春。所属したり喪失したり名前変えて日記書いたり。近年は落ち着いてきたと思うし他人からもそう言われる機会が多くあったけど、実際にはそんなことはなく、自分は中学の時からなにも変わっていないんじゃないか?

顔を洗いに洗面所に。薄い隈が浮かんでいる。泣きそうな顔を見て苛立つ。無理に笑顔を作ったら右の口角だけがぎっと上がり、その顔にますます苛々する。こいつは何をやっているんだ。
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そんなわけで眠れない夜中の4時、どこか知らないところに行きたくなって起き出す。財布と免許を持って家を出る。

しかし目的地はない。車もない。原付しかない。最初の赤信号で気分が萎える。ウォークマンを耳にはめて気分を変えんとする。

「まっさかさまに落ちて行くのさ 用意はいいかい DAY&NIGHT(高橋徹也「NIGHT&DAY,DAY&NIGHT」)」
どうだい、と言われても。

「寝惚けた頭に水をかけられたみたい 気分はどうだい DAY&NIGHT(同)」
やその、最悪ですけど。最悪の時に聴くネガティヴな歌詞は嫌いではありません。ちょっと持ち直しました。

T字路。とりあえず南に進むことに。夜中の海なんてどうだろう。十五夜は終わったけどまだまだ丸い月がぽっと浮かんでいて、誰もいなくて波の音が聞こえて。悪くなさそうだ。車も通ってないし、きっと一時間もすれば着くさ。

だが、例によって道に迷いまくる。一時間後、名前も知らない町の小さな路地にいる自分。空が白み出す。急がなきゃ。夜の海を見なきゃ。

太い国道を探し当てたときには交通量は大分増え、月は白く小さくなっていた。自分は何をやっているんだろう。今の自分はきっとどうしようもなく不安な目をしているんだろう。「仔羊みたいな目をしている」とか「いじめられっこオーラ」とか。恥ずかしい限りだ。急がなきゃ。夜の海を見なきゃ。

夢中で走り、江ノ島大橋前の交差点に出た。ガードレールの向こう側に水平に引かれた青い線が見える。小汚い原付で、海まで来てしまったのだ。

夜中に(盗んでないけど)バイクで走り出すなんて!本当に海に来てしまうなんて!

あまりにオザキ。あまりにベタ。自分のそんな行動が無様で笑えて仕方なく、腹を抱えて笑う。20秒くらい笑い続けたところで後続車のクラクションが鳴り、あわててスロットルを回す。

長いこと笑ったせいで鬱々とした気分はどこかに消し飛んでしまった。

駐車場にバイクを停め、セブンティーンアイスをかじってふらふらしていると海の向こうからオレンジ色の光が射してくる。

ベタだ。ベタだけど、たまには悪くないんじゃないかな、うん。

素直に感動している自分がどうしようもなく恥ずかしくて、ウォークマンを取り出しオアシスの8年前のアルバムを再生する。もーにんぐぐろーりー、と口に出す。「りー」のおかげでようやく自然な笑顔ができるようになる。