知られざる発音練習の世界(前編)

劇団の基礎訓練には発音練習というものがある。団員が自分の苦手な音をチェックし、正しい発音で喋れるように矯正するためのプログラムだ。早い話が「あえいうえおあお」である。それが浸透しているのは恐らく最も使用頻度が高いからであり、それ以上進化させる必要がないからだろう。舞台に立つ者にとって正しい発音は大事だが、他にも覚えることはたくさんあるし、それが上手にできなくとも強力な個性があれば(圧倒的な美しさや肉体の表現力など)何とかなってしまう場合がある。

だが、声優の場合はどうだろう。美しさも肉体も少なくともブラウン管の上では問われない。声が全てである。その世界にいれば必然的に声のトレーニングに割く時間は増える。トレーニングの積み重ねが「あえいうえおあお」を風化させ、新たな例文を作らせる。それを繰り返す。
結果、ア行からワ行までそれぞれ10種類ずつの例文ができることになる。その中には驚くべきものも数多く含まれる。以下に紹介しよう。

・あいうえお
「いやいやもらった伊予みかんだが、いよいよなくなると、いいや伊予みかんでもという」
愛媛県民が怒るぞ。そういえば「えひめみかん」という発声練習もあった。

「えてして絵を書かない絵かきが駅にいた」
いるなあ、そういう人。勿論ベレー帽。

「愛ゆえ会おう。会えば愛。愛すれば追う。追い追われ会う。家の上で会う。青い家で会う。会えばいいたい、会いたいと」
せっかく会ったならもっと他のことも言おう。

かきくけこ
「貨物列車の旅客は貨物と同じで旅行運賃が安い」
声を出すな。国境を越えたら駅の手前の陸橋から川に飛びこむんだ。

「広告通り心ここにない恍惚の人
田中作蔵(83歳・オス。ふるえ、妄言あり)
買い手はつくのか。

・がぎぐげご
「ガキが学校から下校して、すぐゲームした。鍵もかけず、があがあうるさい。語学学校くらい行け。元気はいいが逆鱗に触れる」
児童虐待の萌芽。語学学校といえばNOVAうさぎが逆鱗に触れる。

「義理義眼義手義足、擬似コレラの義兄を義理で扶養する義務がある」
義兄はニューギニア帰りの傷病兵。義弟は婿養子。

「銀行への義理のために、犠牲者あてに義援金を出した、ぎすぎすした議会の議員」
リコールされてしまえ。

・かきくけこ(鼻濁音)
東京音楽学校出身の、連合国軍総司令官」
マッカーサーのパイプは管楽器。ぽーぺぽーぺーぷーぽー(星条旗よ永遠なれ)

「えげつないひげつけて寝ぐら探すな。夜具の上げ下げぐらい義理でもしろ。こごえるぞ。25にもなってまごまご、もごもごか」
24にもなってまごまご、もごもごです。ごめんなさい。

・さしすせそ
「村長の総領は、そそのかされて染まったが卒業前に、そりが合わぬと総括された」
血生臭い。

・ざじずぜぞ
「ざるの残飯をざくざく食べて、混雑の中で雑誌を読んでるキザなやつ」
エドワード王子の一日ホームレス体験。もう戻れないことを今の彼は知る由もないのであった。

「全校生徒の座禅絶景」
近いのを見たことがある。怖いけど絶景。

・たちつてと
「無秩序な社会と徹底的に戦いを挑み、とうとう叩かれて立ち直れなかった」
そんな。

後味が悪くなった方、すみません。今日はこのあたりで。
次回はダ行から。