10万ドルの夜景

よう新入り。お前も災難だな。こんな所に来るなんて。
おう、よろしく。そうかしこまんなよ。
独身か。故郷に女は?そうか。その方が幸せかもな。
封筒だろ?ああ、俺んとこにも来た。あれはな、年金や公共料金を止めてる奴の所に優先的に届くらしいぜ。うちは新聞も水道もガスも死んでたからな。いつか来ると思ってたさ。
全部まじめに払ってたか…ホントか?そんじゃフリーターか思想犯だな。あ?わかったわかった。まあそうムキになるな。

もうすぐ到着するぞ。
ん、そりゃ怖くないっつったら嘘だ。その辺りはまあ慣れだな。
どんな奴でも死ぬときゃ死ぬし生きるときゃ生きる。そんなもんだ。
俺は最前線で三期も戦ってきた。沢山の人間が死ぬのを見てきた。敵も味方もな。正しいかどうかなんて知ったこっちゃない。俺がやらなくても誰かがやるし、ここの他に働き口なんてあるものか。

流れ星が見えたら?変なこと聞く奴だな。

お前は?
・世界が平和でありますように
・無事に生きて帰れますように
無理無理。三回言えないだろ。

俺か?
・肉食いたい
・女抱きたい
これも長いか。

ま、実際に見たら多分家族の顔が浮かぶんだろう。
俺達はろくな死に方をしないだろうし、天国なんて望むべくもない。だがな、女房とガキのところに毎月年金が届くなら俺は笑って地獄に落ちる。

もうすぐ着くぞ。最後に一つ言っとこう。

お前は羊だ。狼に食われる動物だ。
なんでって、そんなん目を見りゃ分かる。
食物連鎖てのはそういうもんだ。
悲観するな。そのおかげで世界は回ってる。
どうすれば?知るか。草でも食ってろ。
俺達はこっちだ。じゃ。

後方の通信部に配置されて半月。増減する不吉な数字と耳に飛びこむ雑音を浴び続けている。厚い壁の中にいればひとまず死ぬことはないが昼も夜もない。外は雨季。確かひたすらに暗く、風情と見境のない雨が土を濡らし続けるそうだ。あの男は今もいるだろうか。

二ヶ月。
長い雨季が終わり、兵舎の狭い窓から待望の青空が顔を出す。

その夜。
空から一発10万ドルの流れ星が着弾する。綺麗だ。綺麗だ。きれいだ。