病院と美容院

どうして今回はうまく切ってもらえたんだろう。
簡単に言えば腕のいい美容師さんに当たったからだ。
では、「腕のいい美容師さんに当たった」とはどういうことか。もう少し言うと「腕のいい美容師さん」とは何か、「当たった」とは何なのか。
例によってせせこましく見ていくことにする。


まずは「腕のいい美容師さん」の「腕」とは何か。Webに頼ってみよう。

[腕]の大辞林第二版からの検索結果 
うで 【腕】
(1)肩から手首までの部分。古くは、ひじから手首までの部分。「―を組む」
(2)物の横に突き出た部分。横木。「―木」「椅子の―に手を置く」
(3)能力・技術。腕前。てなみ。「―が上がる」「―を磨く」「―のある職人」
(4)腕力。力。「―ずく」

今回のケースには(3)、つまり「能力・技術」が当てはまるようだ。
ここでは曖昧な「能力」は脇に置き、技術面から検証していく。
カット担当の美容師に必要な技術とはシャンプー(別の美容師が担当することも多い)・カット・セットの正確さ、美しさ、それにスピードである。
なお、ここでのスピードとは殊更に速く切ることではない。店や客の事情からスピードを上げたときにも仕事のクオリティを落とさないことである。それが正しい技術というものだ。

では、上記のような技術のある美容師に髪を切ってもらえば大丈夫かというと、そうとは限らない。技術面に問題がなくとも変な髪型になることがあるからだ。

「変な髪型」のタイプは多い。
1.美容師の失敗
2.新しい髪型への不慣れ、無理解
3.誰がどう見ても変な髪型
4.注文通りだがどこか違う髪型

1は「前髪を切りすぎた」という声に代表されるもので、
責任は切った人間の側にある。
2は「上司が突然アフロ」という声に代表されるもので、
周囲が変化を受容することにより解決する。
3は「稲中の井沢の髪型」という声に代表されるもので、
責められるべきは本人のセンスである。
4は「なんか違うんだよ」という声に代表されるもので、
この中では最もありそうなケースである。
ここで問題にしたいのはもちろん4番だ。しばしばそれは美容師との相性が問題だと言われてきた。


では、相性とは何か。


■[相性]の大辞林第二版からの検索結果 
あいしょう あひしやう 【相性・合(い)性】
(1)男女・友人・主従などが、互いに性格がよく合うかどうかということ。古くは生まれ年で判断し、特に縁組には重視された。「彼とはどうも―が悪い」「―は聞きたし年は隠したし/柳多留 6」
(2)相手との性格や調子の合い方。合い口。

なるほど、性格や調子か。だがそんなつかみどころのないものが相手では打開策が見当たらない。

ここでは「相性」(2)を拡大解釈し、自分の頭にある完成予想図と相手のそれとのギャップだと捉え直す。
すると、光が見えてくる。そうしたギャップは適切なコミュニケーションによってある程度軽減させることができるからである。写真を見せる、前回のカルテを参照する、顔をつき合わせて相談する等の手によって両者の誤解は薄れ、完成時の違和感も減少する。イメージ通りに仕上げてくれれば不満はなくなるし、理想的なケースでは客は「もっと似合う髪型」に出会うことさえできる。少なくとも理論上はそうである。
ここにきてようやく分かってきた。
先ほど脇に置いといた「腕」の定義のひとつである「能力」とは、美容師によるコンサルティング能力のことなのだ。「腕」の定義が出揃った所で結論。

「腕のいい美容師」とは、「対話を通じて得た情報を活用し確かな技術を遺憾なく発揮したサービスで、客を満足させることのできる美容師」である。

ああ小難しい。しかも今適当に考えたから合ってるかどうかも分からない。もっと簡単にいこうぜフリスク

前回出した美容師≒医者説に則ると、
外科手術の前に内科できっちり診察をしてもらおうということである。


■附録
医者といって思い出すのがこれ。
このケースでは美容師は医者より建築家に近い。

ライトの法則
医者は失敗を地中深く葬り去ることができるが、建築家は「ツタを植えれば大丈夫ですよ」としか言えない。(『マーフィーの法則』より)